2018年2月16日金曜日

南極/S17


 2月になりました。

 もう月も半ばになってなっているというのに何を言っているんだハハハこやつめと思われる方もおられるかもしれませんが、時差というやつです。

 また二、三週間ほど更新が滞っておりましたが、べつに飽きたとか、ゲームやっていたとかそういうわけではなく、いやでもPS vitaがあるからゲームはやっていて、でもゲーミングノート持ってこなかったのでPCゲーはほとんどできないのですよね。
 自分の(日本で)持っているノートはラップトップというには少々重いノートなのですが、たしか『Hitman: Blood Money』(*1)が旧PCが動かなかったときに買ったやつなのでインディーズ程度ならプレイできる程度のスペックはある。ちなみに今の(本土に置いてきた)PCは『Divinity: Dragon Commander』(*2)が動かなかったときに買ったやつ。買った時期がわかりやすい。次は日本に戻ったあと『Mount&Blade2』(*3)のときかなー。でもM&Bはグラボよりメモリが大事だとか噂されていたし、メモリ増設か入れ替えるだけで十分かもしれない。
*1) ハゲバーコード(バーコードハゲではない)の暗殺者が明らかに目立ちすぎる変装をしているのに誰も気づかないことにツッコミを入れる変装ステルスアクション、その最高傑作とも謳われる4作目。スーツケースに爆弾つけて投げるのが好き。
*2) エルフ・ドワーフ・トカゲ・アンデッドから嫁を選ぶ恋愛シミュレーション。ゴブリンの嫁はゲーム開始時前に自爆している。
*3) 管理人がPCゲー5指に挙げるRPGの次作。兵となり、将となり、戦国乱世の大陸を駆け抜ける。絵面がわりと地味なので良さを示すのが難しい。

 越冬中時間があるので、ゲーミングノートを持ってきていれば宙ぶらりんになっていた『Vampire: the Masquerade -Bloodlines-』(*4)でもやれば良かった。
*4) TRPGのVampire: The MasqueradeシリーズをCRPG化したもの。Tremeraの血液魔法Thaumaturgy関係とSeduction型でやっていたが、HDDがクラッシュしたあと環境を戻すのが面倒で手をつけていなかった。周囲の敵を吐血させるPurgeが勢いあって好き。

 例によって、こうやって南極に純粋に関心のある方を全力で切り捨ててからの切り出しですが、えー、何が書きたかったんだっけ、ああ、そうだ、なんで更新していなかったかという話でした。観測のため、基地の外に出ていたためです。

 第59次南極地域観測隊の本隊は11月末にオーストラリアを出港後、12月終わり頃に昭和基地に到着しました。その後、(南半球の)夏期間の観測や設営作業を行い、2月1日付で越冬交代式を行いました。
 未だ完全に「越冬成立」と言える段階ではないのですが、少なくとも南極の短い夏は終わりを迎えてしまっています。
 冬来たる。
 しかしながらその前に、短い短い夏があり、そこでは夏にしかできない観測が行われていたのです。わたしは夏観測として、主にS17という観測地点に行っていたのです。

S17とは

まずS17の位置を確認してみましょう。



 上の図は南極大陸のおおよそ全域を表したもので、昭和基地があるのは黒縁取りの赤丸で示した場所です。この規模だとわかりにくいため、昭和基地周辺を拡大したものがその右の図になります。

 見ての通り、昭和基地(黒縁赤丸)が大陸から僅かに離れた東オングル島という島にあるのに対し、S17(赤丸)は南極の内陸にある観測地点です。グレースケールは(氷床を含む)地表面高度を表しており、ほぼ海面と同じ高さにある昭和基地と違い、S17はいくらか高いところにあるのがわかります。

 昭和基地から東に約20km、標高約600m。基地からヘリコプターでおおよそ10分程度のこの地点は大きく分けて二つの役割を持ちます。


1) 観測地点として
 昭和基地は海上の島に存在しており、その風景は夏場はさほど南極めいていません。全景を見渡してみると、確かに海には海氷が浮き、陸には雪が尾を引いていますが、むしろ目立つのは青銀色の雪や氷ではなく土気色の露岩であり、通行するトラックや建築中の建物、ヘルメットを被って歩く人々も手伝って、基地という名前にむしろ相応しいくらいであるといえます。

 一方でS17はといえば、内陸のそこにあるのは雪と氷ばかりです。



 内陸とはいっても斜面のほんの端ですが、昭和基地とはまったく違う世界が広がっているというのは身体で体感できます。
 S17にはふたつの小屋が存在し、片方が居住棟、もう片方が発電棟となっています。発電棟(および接続された居住棟)からは日本で一般に使われるような100V電源が取れるため、天気さえ許せば日本と同様の観測が行うことが可能です。



2) 航空拠点として
 S17の拠点小屋から東に覗ける位置に、雪面に線が入っているのが見えます。近づいてみると、それは幅50m長さ1kmととても太く、周囲には家紋のように三つの穴の空いた黒い旗が立っているのが見えます。

 これはDROMLAN(DROnning Maud LANd)飛行機のための滑走路です。11月末に出発する本隊よりも一ヶ月先駆けて出発する先遣隊は飛行機で南極入りしますが、彼らが最初に降り立ち、そして2月に帰還するときにはこの滑走路を使うのです。



S17の設備

-発電棟
 風下側にある発電棟はその名の通り発電を担う小屋です。前室には外で使う旗竿などが置かれていますが、そこからさらに入ると中央に大きな発電装置があります。この発電装置は隣の居住棟で人が生活している時期にのみ稼働しています。普通に暮らしている限りでは、燃料は(余裕を見て)約3日程度で給油することになります。

 発電装置は暖かくなるため、造水装置としても用いられます。造水装置というと大袈裟ですが、バケツに綺麗な場所の雪を取り、発電装置の上に置いておくだけです。半日〜1日程度で雪は融け、水を作ることができます。雪だけだと熱が伝わりにくいので、多少水を溜めておいてその上に雪を入れると多少効率が上がります。


 奥には扉が3つあり、いちばん右は倉庫のような扱いですが、残りの2つの個室はトイレとなっています。といっても、電気はあれど水が流れるわけがないので、水洗なわけがなく、汲み取り式でもありません。野外ではペールトイレという腰掛けられる缶のような形状に上蓋が付いたものを利用し、ここにゴミ袋をセットして大便は足します。

 一方で小便は外の風下に旗を立て、そこにします。寒いです。さむい。


 発電棟の上部には気象庁設置の気象計が存在しています。ここには風力発電装置も取り付けてあり、発電小屋の装置が稼働していなくても気象観測測器は稼働し続けることが可能です。このデータはあくまでヘリコプターや飛行機の利用のために用いられることが多く、昭和基地の観測とは違って一般向けにデータは公開されていません。


-居住棟
 風上側にあるのが居住棟です。前室を抜けた先が居住棟のメインスペースとなっており、広さとしてはわたしが引き払ってきたアパートの部屋より広いくらいとなっています。

 入口から見て右手手前のスペースは循環型の暖房装置となっており、零下の外気温の中でも居住棟にいれば普段着で過ごすことが可能です。

 右手奥には台所があります。IHクッキングヒーターが備え付けてあり、電磁調理を行うことができるほか、グリル、トースター付き電子レンジ、冷蔵庫など、一般的な台所よりむしろ高性能な設備が備えられています。

 左手側には長テーブルがふたつくっつけられて置かれており、食事や休憩をすることが可能となっています。また、小屋内に宿泊する場合はこのスペースに布団を敷いて寝ていました。


S17の環境

先に地図で見たように、S17は昭和基地と違って大陸斜面上にあり、近くに熱源である海がないため常時雪と氷に包まれています。斜面上に存在するため、カタバ風と呼ばれる斜面を駆け下りてくる風の影響を受けやすく、日中の一部を除けばほとんどの時間帯で東方向から風を受け続けています。風速は昭和基地よりも秒速で5m程度強く、10-15m/s程度の風は珍しくありません。

 南極は沿岸では陸上や海氷上ではペンギンやアザラシや鳥類が、海面下では魚類やプランクトンなどが見ることができますが、大陸斜面上のS17では夏の期間であっても生物を見る機会はほとんどありません。しかし稀ながら、尾に黒い線の入った白い鳥が飛んでいく姿を見ることができます。


S17の今後

S17は観測拠点として用いることができるのみならず、DROMLANによる飛行機利用のための拠点として用いることができる非常に有用な拠点です。

 長期的な利用を目指し、雪の影響を防ぐために高床式のようになっていたうえにジャッキアップによって床を上げることが可能となっていはずの本拠点ですが、長期間の利用により、高床だった頃の面影はもはやなく、雪に埋もれつつある状況です。果たして本拠点はいつまで使うことができるのでしょうか。このままでは沈んで行くばかりのS17を救うのは……そう、金です。よろしくお願いします。




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Maira Gall